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げんぞうがはら

源蔵ヶ原

山本 周五郎

「週刊文春」文藝春秋新社、1962(昭和37)年12月17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,843 字 · 28 页

青空文庫

「恥をさらすようだが、おれは二人の逢曳きを見た」と忠太は酒を啜ってから続けた、「四月の末から五月へかけて、三度、いや四たびだった、この店がひけたあと、源蔵ヶ原のもちの木のところでな、おれはこの眼でちゃんと見たんだ」

「おかしいな、二人は夫婦約束ができてたんだろう」と又次郎が云った、「そんならなにも、そんなところでこそこそ逢うこたあねえと思うがな」

「そのわけはのろが話す」と忠太が云った、「おれは自分の見たことを云うまでだ」

「宗ちゃん」と云って市三が、燗徳利を振ってみせた。

宗吉が手を鳴らし、女中の答えが聞えた。いっとき、小座敷の中がしんとなった。表の店の賑やかな騒音が高まるように感じられた。「ははあ」又次郎が膳の数を眺めて、なにか、合点のいったように頷いた、「――いままでの話のようすといい、膳が五つしきゃねえところをみると、わけというのは泰二なんだな」

誰もなにも云わなかった。女中がまた二人で酒を持って来、燗徳利を替えて去った。

「どうもおかしい」又次郎は首を振った、「みんなはなにもかも知っていて、おれ一人がつんぼ桟敷にいるみてえだ、宗ちゃんはおちついて飲めって云うけれども、これじゃあいくら飲んだって酔やあしねえや」