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ためいきのへや
溜息の部屋
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1933(昭和8)年4月12日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,369 字 · 15 页
僕たちは愛を金で売りたくないと思ったからだ。はっは、諸君、ところがこんな始末だ、愛を売らなかった僕は、今や八千代の芸術を売って生きなければならない――見たまえ、ここに可哀想な人喰鬼がいるのを!」
勇助がくどくどとしゃべっているとき、不幸にも向うの隅の卓子で、安土竜太郎がせっせと作曲の鉛筆を走らせていた。彼は今粕壁大五郎との共同作品である、例の大きなシムホニイのテエマ・メロディを苦案しているところなのだ。
そのとき舞台では『思出の小径』という甘いアメリカ映画が進行中であった、おそらくその伴奏楽の感傷的な曲が、勇助の饒舌に油を注いだに違いない、彼の口調はわけもなく涙の色彩を濃くした。突然、安土竜太郎は鉛筆を卓子の上に叩きつけて喚いた。
「そうだ、君は可哀想な、憐れむべき人喰鬼だ、八千代さんの血を吸う蛭だ、君がいなければあの人は芸術を取戻せる、なぜ君は自分の首へ繩を巻付けないんだ、そうすれば何もかも解決するのに、え?」
根来勇助は蒼白になった、初めは竜太郎の言葉の意味がのみこめぬらしく、白痴のように唇をもぐもぐさせていたが、やがて立上って、吃りながら、
「君は、君は――」