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ためいきのへや

溜息の部屋

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1933(昭和8)年4月12日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,369 字 · 15 页

青空文庫

今まで大きな声ひとつ響いたことのないこの部屋に、活気のある笑いが絶えずわいた。出たり入ったりするみんなの足取は軽く、そして楽しげだ、偏屈な沢木七郎まで柄になく冗談をとばした。映画がかぶってから、待っていた根来八千代夫妻を取巻いて、みんなが近くの喫茶店に集まるときなど、そこには若々しく力強い芸術の雰囲気が醸しだされる。一言にして云えば小さなラ・ボエームの一場面だ。安土竜太郎がふいに立って外へ出て行ったかと思うと、間もなく赤葡萄酒の――途中で日本製のあくどいレッテルを剥取って――壜を二三本抱えて戻って来る。それぞれのタンブラアへ酒が注ぎ回される、ブラボーの三唱だ。見習の早見俊平は立上って、うろ覚えのアンニイ・ロオリイをうたい始めた、しかしひどく亢奮しているので歌を続けることができず、すぐにやめて腰を下す、みんながそれに好意ある拍手を送る、やがて根来勇助が椅子の上に立って、タンブラアを高く捧げながら叫ぶ。

「諸君、これこそ正に我らの人生だ、今や世の芸術は黄白の密室で取引され、卑俗の冠を頭に、汚穢の沓を穿いて太陽の下を往くが、ここには一杯の佳き葡萄酒と、高邁なる感情の昂揚がある、見えずといえども桂冠は我らの額高く輝き、象なけれど綾羅の衣我らを飾る、我らに掣肘なく、我らに阿諛なし、猥雑の世を遙に見下して、飢と貧困の