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ためいきのへや

溜息の部屋

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1933(昭和8)年4月12日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,369 字 · 15 页

青空文庫

楼高く我らは謳う。見よ、これこそ正に我らの人生だ」

みんなのタンブラアが高くあげられた。安土竜太郎は筐からヴァイオリンを取出し、みんなは根来八千代を、擬大理石の卓の上へ押上た。

「チゴイネルワイゼン※(感嘆符二つ、1-8-75)」

根来八千代はうたいだした。みんなは軽く軽く卓を叩いていたが、やがてそれが混声合唱になった。

この奇妙な宴の果てた後、安土竜太郎と沢木七郎は、腕を組みながら深夜の街へ歩きに出て行った。二人の眼は輝き、呼吸は深くなり、足は力強く、凍てついた道を踏緊めて行った。

「そうだ、これこそ人生だ、貧乏と、屈辱と、嘲笑と、そして明日の望みのなくなったときこそ、はじめて我々は人生に触れるのだ」

「落魄とは何だ、もっとも高く己を持する者のみに与えられた美酒ではないか」

そんな事を取止めもなく語りながら、暗い裏街をそれからそれへと、あてどもなく歩き廻った。そして夜明けがたブラフ・シネマの楽屋へ戻って来た彼らは、並木街に面した窓から部屋の中へもぐりこんで寝た。

しかし、こういう亢奮は、べつに安土竜太郎や沢木七郎だけが味わったのではない、一例をあげて云えば、見習の早見俊平が英語学校へ入ろうと決心したのも――これはついに実現されなかったが――その影響であるし、ピアノの粕壁大五郎が、共同で大きなシムホニイを作曲