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とろ
瀞
佐藤 垢石
「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页
五
その後、森下邸に八月中旬過ぎまで滞在して、あちこちの川や海を釣り歩き、再び京都へ戻って、南紀州の熊野川行を志した。この行には、姪夫妻も加わった。八月上旬に紀勢線が紀州東端の矢の川峠の入口の木の本まで通じたので、六月の旅のときとは違い、楽々と大阪天王寺から一路車中の人となることができた。途中で、勝浦の越の湯に一泊し、翌朝姪夫妻は新宮からプロペラ船に乗って瀞へ行き、私ら親子は新宮の駅前からバスに乗り、五里奥の日足の村へ向かった。
日足の宿では一泊一円五十銭、随分と多くご馳走がある。毎夕おしきせに、麦酒が二本。これは勿論旅籠料のほかだが、今の相場から見れば、ただに等しい。
この村の前の熊野川には、上流にも下流にも連続して立派な釣り場がある。鮎の大きさは七、八寸、一尾二十匁から三十五、六匁ほどに、丸々と肥っているのである。
まことに盛んに、私の竿にも伜の竿にも、大きな鮎が掛かった。
熊野川の鮎は、日足から上流一里の河相まで遡ってくると、左へ志すのは十津川へ、右へ行くのは北山川へ別れてしまうのであるが、十津川筋へ入った鮎は残念ながら風味に乏しいのである。