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とろ

瀞

佐藤 垢石

「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页

青空文庫

この瀞場には、数多い鮎がいる。ということは承知しているのであるけれど、瀞場の友釣りについて、あまり深い造詣を持たぬ人達かも知れない。

その人達は、私ら父娘が、娘が忙しく釣り私が忙しく手網に入れる姿を注目していたが、とうとう三、四人の人々は竿を河原に置いて私らの近くへ集まり砂の上へ腰を降ろしてうずくまり、私ら父娘の釣りを観察しはじめた。

疲れたので、一服していると、人々は私の傍らへきて、そのうちの一人が私に、あなたは垢石さんですかと問うのである。そうであると答えると、そうですか流石になあ、娘さんでさえも――と、幾度も感嘆の声を発するのである。感嘆する一人は、どこかの釣り場で一度か二度見かけた顔だ。

十一

昼近くなったので、飯を食べに一旦宿へ引きあげることにした。そこで私は娘に、お前はもう十尾ほど掛けたかも知れない。しかし、きょうはじめて釣った鮎は、お前の経験や腕前で釣ったのではないのはお前も分かっていよう。ところで、経験や腕前もないほんの初心者になぜ瀞場の鮎が盛んに掛かるかということが問題だ。それはつまり、お前は傀儡であるからである。竿を持った人形が、人形使いの意のままに動いて観衆を感動させたということは、人形に人形使いの精神と技術とが乗り移ったからであるといえよう。