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かじ
火事
小川 未明
「山野に鍛へる少国民」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,986 字 · 6 页
「かぜをひくといけないから、およしなさい。」と、お母さんも、いわれました。
「だって、叔父さんがお留守なので、叔母さんが心細いだろう。」
信一は、もう洋服に着かえていました。だれがなんといっても自分は、いかなければならぬという堅い決心をようすにみせて、二階から駈け下りました。
この時刻には、ポンプの走る音が方々でしていた。けれど火の手は、なかなか衰えそうにも見えなかったのです。先刻までまったくなかった風が、意地悪く出はじめて、寒気が募り、長く北窓を開けてはいられませんでした。
門の外で、チリリンと鳴らしたベルは、信一が、物置から自転車を引き出して、いま乗っていったのでありました。
一家のものは、ふたたび床の中へ入りました。しかしお父さんは、信一が帰ってくるまでは眠られなかった。つい数分間前まで、平和で、何事もなかった夜であったが、急に思いがけぬでき事のために、みんなが眠りを破られ、そればかりか内と外と、ちりぢりになって、こんな心配をしなければならぬというのはどうしたことだろう、と、お父さんは思ったのでした。
「あの子は、もうこの家に私たちといっしょにいるのでない。