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かせいたんけん

火星探険

海野 十三

「サイエンス」1945(昭和20)年12月~1946(昭和21)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,522 字 · 155 页

青空文庫

「これはいけない」

河合はあわてて新しい音盤を掛けた。

それはベートーベンの「月光の曲」であった。この静かな曲が響きはじめると、ざわついていた火星人は、ぴたりと鳴りをしずめた。

「ふむ、やっぱり火星人は音楽好きだな」

と、河合は呟いた。

しかし火星人たちはもう踊らなかった。そして石のようにからだを硬くして、大きな目玉をこっちへじっと向け、それから奇妙な声をあげはじめた。それは名曲に魅せられてすすり泣いているように思われた。

「おーい河合。そんな音盤はやめちまえ。ベートーベンじゃ踊りようがないじゃないか」

箱自動車の上から、山木がどなった。

「もっと踊れるにぎやかな曲をやってくれ。あれ見ろ、火星人が吠えているよ。今にこっちへとびかかってくるぜ」

ネッドが下へ抗議の声を送ってきた。

「ああ、そうだったな、君たちは踊っていたんだ。今、曲をかえるよ」

河合は、また、あわてて音盤をかけかえた。手にあたったのが「越後獅子」であった。これならにぎやかなこと、まちがいなしだ。

和洋合奏のにぎやかな曲がはじまった。

すると、そのききめは、すぐ現れた。墓石のように硬くなっていた火星人群は、たちまち陽気に動きだした。