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てん

点

小川 未明

「新天地」1909(明治42)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页

青空文庫

その頃この町の端に一つの教会堂があった。堂の周囲には紅い蔦が絡み付いていた。夕日が淋しき町を照す時に、等しくこの教会堂の紅い蔦の葉に鮮かに射して匂うたのである。堂は、西洋風の尖った高い屋根であって、白壁には大分罅が入っていた。

日曜になっても余り信徒も沢山出入しなかった。

その教会に計算翁と渾名された翁が棲んでいた。

計算翁は牧師である。肩幅の広い、ガッシリした六十余歳の、常に鼠色の洋服を着て、半ば白くなった顎髭をもじゃもじゃと延して、両手でこれを披いている。会堂の両側は硝子窓である。外の扉を開けて入ると、幾つかの椅子が行儀よく並んでいる。その数は凡そ五十ばかりもある。正面に高く壇があって、其処に一脚のテーブルが置かれて、背後は半円形にたわんで喰い込んでいた。壁は凡て白く塗ってあった。其処で計算翁は日曜毎にあつまる町の人達に向って説教した。けれど毎週つづけて来るような信者は二人か三人位いで、大抵は遊び半分に来る人が多い。いつも人の数は二十に満たなかったけれどこの翁は、町の子供等に慕われていた。翁は冷静な頭を持っている。それで算術が上手であった。