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むざんやな

無惨やな

久生 十蘭

「オール讀物」1956(昭和31)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,601 字 · 16 页

青空文庫

若気のあやまちで、すませばすまされる根のない行状だったのだが、蔵人には、いっさい勘弁がなく、無理に願って姫路へ呼びくだし、納戸にひきこんで一刀のもとに斬って捨て、死体は長持の中へ放りこんでおいた。

二十年来、蔵人に仕えている老僕の話では、納戸の板敷を這って逃げまわるのを、ひと時、立身になって冷然と見おろし、

「死ね」

と一喝するなり、未練もなく首をはねたということである。

八月の末、犬塚又内が江戸へ帰るので、蔵人のところへ挨拶にきた。蔵人は、いつにない鄭重なあしらいで、又内を書院に通し、

「帰府されるについて、チトおねがいの筋があるのだが」

と、うちとけたふうにいった。

「江戸表、同役中へ御用差がたまり、差繰りに骨を折っておる。隠密の御用は、書状ではいけぬから、一通りお聞きあって、同役へお取次ねがう。出立の前に、いちどお出でくださらぬか。それで、出立は何日」

「この二十日に」

「それならば、民部左衛門も誘って、二十日の夕刻から、お出掛けなさい。出府なされば、五六年はお目にかかれぬのだから、用談が終ったら、ゆるりと一献、酌もう。御馳走と申すほどのものもないが、道光庵仕込みの蕎麦切をお振舞いする。