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むざんやな
無惨やな
久生 十蘭
「オール讀物」1956(昭和31)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,601 字 · 16 页
思われるほど、抜目のない男であった。
雅楽頭の屈託するようすが目にあまるので、犬塚はたまたま出府してきた国家老の本多民部左衛門をつかまえて相談をしかけた。
「御当家は、一と口に、井伊、本多、酒井と申し、諸大名方とはちがう重い家柄ゆえ、かような大切なお役儀をお勤めなされ、万一の儀でも出来したせつは、お身の障り、お家の恥、ご領地にも疵がつくことになり、ご先祖にたいして、このうえもない御不孝となりましょう。殿におかれて、お志があれば、まだしものことですが、日々の登営すら懶く思われ、内書にあずかることさえ疎んじらるるようでは、この先のことが案じられます。お役を勤めて、ご恩を報じるなどは、栄達を求める微禄の輩に任せておけばよろしいのだと思うが、ご貴殿のお考えは、どうありましょう」
雅楽頭は煩労には耐える気力がなく、職をおさめ、政事を補佐するという器でないことは、みなともに認めるところだったから、本多民部左衛門もうなずいて、
「国許でも、お選みの当初から、案じていたのはこのことであった。上のご難儀はわれらの難儀。とてものことに、御役ご免をねがうようにはまいらぬものか」