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むざん

無惨

黒岩 涙香

「小説叢」1889(明治22)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,602 字 · 56 页

青空文庫

云いつゝ先ず手帳紙入など握み出して卓子に置き其上へ羽織を脱ぎ其又上へ帽子を伏せ両肌脱ぎて突々と薪水室に歩み入りつ手桶の水を手拭に受け絞り切ッて胸の当りを拭きながら斜に小使を見て例の茶かし顔「お前アノ大鞆が何時出て行たか知ないか(小)何でもお前様が出為てから半時も経たんべい、独りブックリ/\言ながら出て行ッたアだ(谷)フーム何所へ行たか、目当も無い癖に(小)何だかお前様の事を言ッたアだぜ、私が廊下を掃て居ると控所の内で谷間田は好年イして煽起エ利くッて、彼奴浮々と悉皆り多舌て仕舞たと言きやがッて、エお前様煽起が利きますか谷間田は眼を円くし「エ彼奴が己の事を煽起が利くッて失敬な奴だ好々是から見ろ何も教えて遣ぬから好いワ、生意気な」と打呟きつゝ早々拭終り又も詰所に帰りて帽子は鴨居に掛け羽織は着、手帳紙入は懐中に入れ又「フ失敬な―フ小癪な―フ生意気な」と続け乍ら長官荻沢警部の控所に行たり長官に向い谷間田は(無論愛嬌顔で)先ほど大鞆に語りし如く傷の様々なる所より博奕場の事を告げ頓て縮れたる髪筋を出して差当りお紺と云える素性不明の者こそ手掛りなれと説き終りて更に又手帳を出し「斯う見込を附たから打附けに先ず築地の吉の所へ行きました、吉に探らせて見るとお紺は昨年の春あたり築地を越して何所へか行き今でも