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むげつものがたり
無月物語
久生 十蘭
「オール讀物」1950(昭和25)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页
「よくわかった。お前の言ったことをこの紙に書くがいい」
「かしこまりました」
僕は助かりたいばかりにすぐ筆をとったが、肩を痛めているので、はかばかしくいかなかった。しかしともかく書きあげた。泰文は誓紙をひったくると、腰刀を抜いて三度僕の胸に突きとおし、立ったままで、死にゆくさまを冷淡に見おろしていたが、僕が布直衣の胸を血に染めてこときれると、白女のほうへ向いていた。
「こんどは、お前の番だろうな」
白女が狂乱して叫んだ。
「どうぞ、命だけは」
「いやいや、そういうわけにはいくまいよ。とんだところを見せものにして、主人の淫慾をそそるとは出来すぎたやつだ。この俺だって、そこまでのことはしない」
そういうと、白女の垂れ髪を手首に巻きつけ、腰刀で咽喉を抉った。白女はむやみに血を出して死んだ。
泰文は二つの死骸を芥捨場へ投げだし、裏門から野犬を呼びこんで残りなく食わしてしまった。そうしておいて、保平のところへ行って陽気に酒盛をはじめた。
すさまじい絶叫や叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)の声で、保平は事の成行を察していたので、どうされることかと生きた空もなかったが、泰文は徹底的な上機嫌で、なにがあったかというような顔をしている。