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むげつものがたり

無月物語

久生 十蘭

「オール讀物」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页

青空文庫

とか「カカル美容(ミメ)ナシ」とかいったような記述が残っている。不幸だった花世の身のすえに同情するあまり、いくぶん誇張した向きもあるのだろうが、光実の肖像画で見るくらいの美しさはたしかにあったのだろう。泰文は天下りにぎとられた一千貫の怨みが忘れられず、毎日、大酒を飲んで激発していたが、日に日に女らしくなってくる花世のなりかたちを見ると、後から追いかけられるような気がして、またしても落着かなくなった。いろいろと思いあわせるところ、葛木を家から出したのは公子の仕業だったような気がするが、それはともかく、花世の美しさはなんとしても物騒である。放っておくと、姉とおなじようなことをやり出すかもしれない。このうえまた一千貫では精がきれる。そばからつまらぬ知慧をつけられぬようにと、花世を殿舎の二階に追いあげ、食事も自分で運んで行くくらいに用心していたが、思春の情はなにものの力でもさえぎることのできない人性の必然であって、そのほうを始末するのでなければ、完全におさえつけたという満足はえられないわけだと、放蕩者だけあっていみじくもそこに気がついた。足りないものをみたし、性の満足さえ与えておけば、嫁に行きたいなどという出過ぎた考えを起こさず、いつまでも手元に落着いているのだろうが、ほしいものを宛てがえばいいといっても、そこら