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むほうもの
無法者
豊島 与志雄
「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页
志村が黙りこんでも、一座は賑かだった。食べものの話、戦争の話、映画や演劇の話、それから殊に人の噂は尽きなかった。ただ、どこかに一線があって、それから先へは踏み込めないようだった。
志村は今井家へ来る前から飲んでいたので、次第に酔いが深まり、意識が途切れがちになっていった。踏み込んでならない一線を突破しようとしたらしく、何のきっかけでか、へんなことを話した。
銀座の或るキャバレーの踊り子を誘い出して、ホテルへ行き、彼女を裸にさして、その臍を嘗め、そしてそのまま、ホテルを飛び出してしまった……。それだけの簡単な話だったようだと、志村自身は覚えている。
どうして時間をすごしたか、志村自身にもよく分らず、その夜遅く彼は自動車で自宅に戻った。途中、銀座のキャバレーに寄ったようでもあり、寄らなかったようでもある。
夜明け近く、志村は駭然として眼を覚した。
或る映像が高速度で廻転したのである。
彼はホテルのベッドに寝ていた。すぐ側に、若い女が仰向きに真裸で横たわっている。彼は静かに上半身を起して、餅のようなその腹部に顔を埋め、臍にキスした。女は死んだように横たわりながら、くく、くく、と軽く笑った。