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むち

無知

中谷 宇吉郎

「現代教養講座第二巻 幸福と自由」角川書店、1957(昭和32)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,776 字 · 16 页

青空文庫

ということは、それらの人々は、自分のしていることの本質を、考えてみようとしないからである。

第四は、最も下等で、それだけに簡単な場合である。それは相手を酔わせて、そのすきに乗じて、何らかの取引を、有利にとり結ぼうとする場合で、これは説明を要しない。

いずれの場合にも、合理的精神の欠如の陰には、何らかの形での不正がかくされている。すなわち、無知には、無意識のこともあろうが、ある種の胡麻化しか不正かが伴なっているとみて、さしつかえないようである。そういう意味で、人間の幸福をはばむ最大のものの一つとして、無知を挙げることは、そう見当ちがいではないであろう。献酬の風習などは、瑣細なことであるが、問題はその基調をなしている合理的精神の欠如である。こういう風潮が社会を支配している国では、待合政治はいつまでも無くならないであろう。

酒の問題などは、最もわかりやすい例で、あまり議論の余地はない。しかし今日の日本に蔽いかぶさっているいろいろな問題、とくに思想を背景とする諸問題は、非常に複雑であって、なかなかその本質をつかみ得ない。こういう問題について、考えようとする努力を怠り、瑣細な感情に甘えていると、その無知に乗ずる人間も出て来るおそれがある。