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むち

無知

中谷 宇吉郎

「現代教養講座第二巻 幸福と自由」角川書店、1957(昭和32)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,776 字 · 16 页

青空文庫

肉体において、頑健な身体から重病人の状態まで、健康の度が、連続的に存在するのと、同じことである。筋骨薄弱でろくに働けないというようなことが、肉体についてはよく言われるが、それと同じことが、精神の場合にもあって、無知の中には、この精神薄弱症的要素がたぶんにある。もっともここでいう精神薄弱は、普通に使われている精神薄弱児童などの場合とはちがう意味である。ものを考えようとする意力が非常に弱いという意味である。

身体が弱いのにも、生れつきの人と、不摂生から来る場合とがある。精神が弱い場合も同様であるが、この方は、「不摂生」が原因であることが多いように思われる。「知らなかった」とよくいうが、本当は「知ろうとしなかった」場合がかなり多いのである。

ここでまず無知の定義を考えておこう。無知は単に知らないということとは、少しちがうのである。

「知らなかったものですから」と弁解する行為は、たいてい自分の欲望の線に沿った行為が多く、自分の不利になるようなことは少ない。もちろんそれを承知してやったことではない。承知しての方が、まだ始末がよいので、意識に上ったところでは、本当に知らなくて、識閾の下で欲望に甘えている点が困るのである。