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むだい(いち)
無題(一)
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 20,502 字 · 41 页
詩人はとどろく胸をおさえてその話をききほれて居ました。
小「マア何と云うおもしろい話だろう。だから貴女はきっと人ではないでしょう。だけれ共私はいつまでもここに居ましょう。ネ、お姉さま」
お姉さまと小さく云って赤いかおをして女を見上げました。女の目は絶えず詩人のかおにそそがれて居ました。
女「有難う」と旅人の手をとってそっと口によせました。かすかに身をふるわせながら、そのやさしい肩を両手で抱きながら、
女「どうしてこんなに美くしいんだろう」と云いました。詩人にはきこえませんでしたけれ共。此の女は始めて若いそうしてしかも美くしい男に会ったんですもの、不思議なほど美くしいと思ったのも無理ではありません。
女「もう疲れていらっしゃるでしょう、早くやすみましょう。私がこもり歌をうたってあげましょう、私の美くしい人」とほほ笑みました。
美くしい旅の詩人は不思議な美くしい女に助けられてこの家に住む事になりました。二人は青草のようなじゅうたんをかるく靴のさきで押えて寝室に入りました。マッシロに美くしいベッドのわきには桃色の絹のおおいのかかったランプがついて四方にはうす紫の帳がたれこめて居りました。