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ねつ

熱

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,235 字 · 5 页

青空文庫

「お前は、求めて病気をして居るんだから。

そう云われるのが何よりつらい。

熱の出たと云う事よりも苦しい事である。父は、あんまりの心配から、腹立たしい様に、

「それは、大病の元なんだからね。

青くひょろひょろになって肺病なんかんなったって、

私は見舞になんか行かれないんだ。

と云う。

私は、ポロポロ涙をこぼしてきいて居なければならない。

母がそう云うのも、父が云う事も、心配してくれるのだと云う事は分りきって居ながら、何だか、それほどには云わないでも、と云う気がする。

ほんとうに何でもない、只の風だ。

私はそう思って居ながら、父の云った事なんかを思い出すと、身も世もあられない様な思がする、のである。

キニーネをのんで、ひとりで、寝部屋に行って、厚い毛布の間に包まって顔ばかり出して、まだからっぽで居る弟共の二つの床を見て居ると、あたりの静けさにさそわれて、気持も、しっとりとなって、唇が何だかパサパサするのをしめしながら、いろいろな事を思う。

勿論この熱で私の命のなくなる様な事は有り得ない事である。

けれ共、いずれ一度は、死ななければならないにきまって居る。