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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
「道はもっとこっちにあった」梶本は独りごとのように、うっとりと云った、「ここで裸になって、あの道をまっすぐに駆けおりて、泳ぎにいったものだ、そう」と彼は心の中で数を読んだ、「ちょうど五十年になるな」
「五十年にはならぬさ」
「いや、そうなるんだ、私は絵師になろうと決心して家をとびだした、あれが二十の年の春だからね、まる五十年になるよ」
又左衛門は喉で笑った、「梶本の強情にはかなわなかったが、家をとびだしたのは本当に絵師になるためだったのか」
「現に絵師になっているじゃないか」
梶本は湖のほうを見まもったまま、ちょっと黙っていたが、ふと唇に微笑をうかべながら振返った。
「檜垣屋の娘のことか」
「忘れてはいなかったな」と又左衛門も微笑した、「私はおそらくそうだろうと思った、ほかに気づいた者はないようだったが、私だけはそうだろうと思ったものだ」
「そうだ、そういう勘のするどさだ」と梶本が自分に頷いて云った、「私はあのころから感嘆していたものだが、佐藤にはほかの者にない勘のするどさがあった、そのうえこの藩はじまって以来、初めて最年少の城代家老になった