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つばくろ(つばくろ)

燕(つばくろ)

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页

青空文庫

理由は、ほかにもう一つ大切なものが、――うん」

松林のかなたで、青年たちの歓声が起こり、続いて活気の溢れる歌ごえが聞えた。

「なんの騒ぎだ」と梶本が訊いた。

「わからないかな」

「娘たちの声もするようだが」

「わかる筈だがね」と又左衛門が穏やかに笑った、「若い者と娘たちが、一年に一度だけ半ば公然と席を並べたじゃないか」

梶本は口を尖らせた。それから一種の微笑をゆっくりとその顔にうかべた、「――茸狩りか」

又左衛門は頷いた。梶本は湖のほうを見ているので、又左衛門の頷いたことはわからない。二人はそのまま暫く、若者たちの浮き立つような歌ごえを聞いていた。

「しかし、佐藤は知らないだろうが」と梶本が云った、「茸狩りを待っているのはいくじなしだけと云われていたんだよ、茸狩りなんかで娘たちといっしょになって、わくわくするような者は軽蔑されたものだ、すばしっこいやつは茸狩りなんぞ見向きもしなかったね」

「音頭を取るのは梶本だったな」

「おれが、――なんだって」

「その」と又左衛門が云った、「そういう方面の音頭を取ったのは、梶本だったというのさ」

そんなことも知っていた