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はちゅうかんじけん

爬虫館事件

海野 十三

「新青年」1932(昭和7)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页

青空文庫

これは西郷の愛に酬うことができなかったので自ら弁解をつとめて償いをし、一方鴨田との愛の問題はもう解決を見ているので一言も云わなかったと考えてはどうか。いよいよ縺れ糸のように乱れてくる帆村の足許に、事件解決の鍵かと思われる物が転がっていた。それは一個の釦だった。

「おお、これは園長の洋服についていた釦に違いない。どうしてこんなところに在るのだろう」

帆村は兼ねて園長の遺していった上衣の釦の特徴を手帳に書き留めて置いたことが役立って大変好運だと思った。それにしても釦を拾った場所というのが、調餌室の直ぐ前の、桐の木材との間に挟った路面だったので、これでは調餌室の人達について一応嫌疑をかけてみないわけにはゆかない。いや、ひょっとすると、爬虫館前に落ちていたという園長の万年筆もこの釦と殆んど同時に落ちたものと認定すると、これは園長の身体を搬んで行った経路を自ら語っていることになりはしないであろうか。恐らく万年筆が最初に落ちて、次にチョッキの釦と思うものが落ちたと考えていいであろう。園長の身体は、爬虫館の前から調餌室へ搬ばれたと考えていいであろう。

だが、どうして人目につかず搬んで行けたかということが次の疑問だった。