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はちゅうかんじけん
爬虫館事件
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页
壁には、象を料理するのじゃないかと思うほどの大鉞や大鋸、さては小さい青竜刀ほどもある肉切庖丁などが、燦爛たる光輝を放って掛っていた。倉庫には竪半分に立ち割った馬の裸身や、ダラリと長い耳を下げた兎の籠などが目についた。
この物凄い光景を見た瞬間、帆村の頭脳の中に電光のように閃いた幻影があった。それは、園長の死体が調餌室に搬ばれたと見る間に、料理人が壁から大きな肉切庖丁を下して、サッと死体を截断する。そして駭くべき熟練をもって、胸の肉、臀部の肉、脚の肉、腕の肉と截り分け、運搬車に載せると、ライオンだの虎だの檻の前へ直行して、園長の肉を投げ込んでやる。……いや、恐しいことである。
「これが、調餌室の主任、北外星吉氏です」西郷副園長が、ゴム毬のように肥えた男を紹介した。
「やあ、帆村さんですか」北外畜養員はニコヤカに笑った。
「貴方のお名前は兼ねてよく知っていましたよ。今度の事件はまるで、貴方に挑戦しているようなもので、実にうってつけの大事件ですなア」
帆村はこの機嫌のいい、しかし何だかひやかされているような気がしないでもない北外の挨拶に対して、頓に言うべき言葉もなかった。