轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ちちのてちょう
父の手帳
宮本 百合子
「中條精一郎」(追悼録)、国民美術協会、1937(昭和12)年1月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,342 字 · 13 页
紙入、そして一冊の平凡な手帳。ハンカチーフ其他――。
この手帳こそ、父の生涯を通じての動く書斎であり、秘書のようなものであったと思います。誰かと会見する約束が生じる。すると父はすぐ内ポケットから手帳を出して、それを書きこみます。百合子、あさってひる飯に事務所へ来ないかい? ありがとう、行くわ。そのような内輪のメモにもなり仲通りの何処かで何か陶器の気に入ったのが目につくと、その場所、見つけた日づけ、時にはその陶器のスケッチなどもこの手帳にされました。
一日のうちに、父は幾度、手帳を出しかけたことでしょう。実にまめに、何でもかきつけましたが、書いてしまうと安心するのか、それを見ないと、それっきりつい忘れてしまうことなどあり、いつかなど、ああ草臥れた、きょうは早くかえれて儲けものだとよろこび、すっかり平常着にくつろいでしまいました。やがてふと用を思い出したと見え、手帳をおくれともって来させ、頁をくっていたと思うと、やアこれはしまった、今夜はどこそこだった! という次第です。だから、お帰りになる前一遍よく手帳を御覧なさいというのにと云いながら母も手伝って、今度はモウニングか何かに改まって再び出かけたことなどもあります。