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ちちやくもをかたる

父八雲を語る

稲垣 巌

「父八雲を語る」ラジオ放送、1934(昭和9)年11月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,383 字 · 15 页

青空文庫

子供達にとっては、此上ない「グドパパ」でした。「ベンキョウスミマシタのパパ」はママや書生達と共に子供等相手に唱歌を歌ったり、鬼ごっこしたり、ヒライタヒライタの遊戯をしてくれました。子供達にとっては、文学上の霊感とかいふこわい夢魔と仲よくしてゐない時のパパは、ほんとうにスウイートパパであり、ナイスフレンドでありました。

えゝと大分お話が脇路へそれかけました。怪談が文字通り「怪しげなお話」になってもいけませんから、私も思い出の夢から醒めて本題に立ち返ります。

所で前にも申しましたやうに「怪談」の世界はヘルンの作の特質なのでありますが、ヘルンをさうした傾向におもむかしめた一つの原因は勿論彼の趣味であります。空想の国、霊魂の世界に奇しき光を放つ怪異なるものゝ美しさ! 之はヘルンの異常な趣味性癖に適ふものであります。

もう一つの原因は、日本の怪談の中にひそむ民俗精神――信仰、思想、これがヘルンの心、ヘルンの思想に暖く共鳴したからだらうと思ひます。例へばヘルンの固執した万有は同一なりとする思想、或は吾等の胸の底に原始祖先の霊魂が眠ってゐるといふ思想――かういふ仏教的な輪廻の思想は日本の怪談にまことに手ぎはよく具表されてゐるのであります。