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ちちやくもをかたる

父八雲を語る

稲垣 巌

「父八雲を語る」ラジオ放送、1934(昭和9)年11月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,383 字 · 15 页

青空文庫

薄暗い十二畳の奥座敷には話手と聴手と二人切り。裏が猛宗の竹薮で、前が石燈籠と釣瓶井戸などのある広いお庭。ずゐぶん気分は出た事と思ひます。

聴手は息を殺して、質問をする時も殊に声を低くして、如何にも恐ろしくてたまらぬといふ様子です。面白いと何回も繰返して話させる。顔色がすっかり変り眼が鋭く恐ろしくなる。だから話す方にも自然力がこもるわけです。おまけにすっかり自分の話にしてしまって語ってゐるのですから、あんまり実感的で、話手の方が参ってしまふんです。こんな気味の悪い二晩三晩が此の化物屋敷をつゞけて訪れると、夫人はとう/\恐ろしい夢に魘されたりして、当分お話を休みにしたこともあったやうです。

怪談中の代表作で、ヘルンの全作品中最大傑作の一つと言はれて居ります「耳なし芳一」は、作者自身も非常に気に入った物語でした。それだけに、其の創作上の苦心のエピソードも中々面白いのですが、先づ、此の物語の解説を致すことにします。名文だと言はれてゐる箇所はなるべく原文をそのまゝ翻訳いたして申し上げます。

「耳なし芳一」の話は、天明二年に刊行された「臥遊奇談」といふ本の中の「琵琶秘曲、幽霊を泣かしむ」