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うしのまるやき
牛の丸焼
中谷 宇吉郎
「あまカラ 第九十三号」甘辛社、1959(昭和34)年5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,119 字 · 9 页
これが住民たちの最高のご馳走であるが、恐らくわれわれの世界でも、最高のご馳走であるかもしれない。「世界中で一番おいしいビーフ・ステーキの香が、はしゃいでいる群衆の間にひろがり、男も女も、湯気の立っている大きい肉の塊りを手づかみにして、草原の中に坐っている」。そして百八十人の住民たちで、無事二匹の牛を片づけたそうである。効果は覿面で、テスト用の巨大石像は、やすやすと、草原の上を曳いていかれたと書いてある。
土の中に穴を掘って焚火をして、焼石と土熱とで、材料を蒸し焼にするというこの方法は、いかにも原始的である。しかし考えてみると、これは高度に文明化した料理法ともいえる。われわれ文明人の調理場の中には、牛を一匹丸焼にする容器は、備えつけられていない。そして恐らく誰も、牛の丸焼の味は知らないであろう。そういう料理を、土人たちは、簡単にやってのけているのである。
文明人の方で口惜しがって、大きいオーヴンを特別につくらせて、牛を一匹入れて対抗してみても駄目である。それなら象といわれたら、きっと困るにちがいない。家から建てなおさなければならないからである。野外でやればいいといわれるかもしれないが、それなら下等なクラントウになってしまう。