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うし

牛

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页

青空文庫

「よーし。これで、すんだ。よかった。よかった。着いたら手紙をよこせ。切手代はまけてやるぞ」

郵便局長は大声ではしゃぎながらドッコイショと娘を背負った。

「病気ですか」

「そうだ。恋わずらいだ」

娘を背負って、スタスタ歩き去ってしまった。

バスの中で、もらったキャラメルのフタをあけようとすると、字が書いてあった。

「あなたのお帰りの日まで生きられないでしょう。芳子」

見覚えのある字であった。

「フーン。そうか」

光也は改めて考えた。

早くそれを云ってくれれば、こんなに苦労はしなかったなと彼は思った。彼は一年間考えて、それから返事をするつもりだった。しかし、だいたいに於て結婚を拒否する意向に定まっていたが、そのために、あの拝殿で胸にだきしめていた希望が、それでみんなメチャメチャになることを考えると、いきなり拒否する勇気がわき起らなくなるのであった。

「これでよかった」

と彼は思った。娘が死んだら、いっぺんくらい墓参に行ってみてもいいなあと考えた。

「このキャラメルを食うと、今度こそアイツを抜くことができるかも知れないな」

競技会の前日までしまっておこうかと考えたが、バスが終点までつかないうちに、みんな平らげてしまっていた。