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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

「立派です」

石川には病人が無心な花の美しさに心を奪われている様がいじらしく感じられた。歩いては眺め、止まっては眺めしていたものと見え、例によってちびた男下駄は、足の指まで雨上りの軟い庭土でよごれきっている。石川は、

「余り立っていらっしゃるとお体に悪うござんすよ」

と注意した。

「縁側にいらしたらいいでしょう、あそこからでもよく見えますぜ」

幸雄は黙って向きかわり先に立って歩き出した。幸雄は手の先については非常に潔癖で、一寸木の枝を弄っただけでも石鹸で洗った。足の方になるとそれが信じられないほど平気であった。どんなによごれていても、それなりで真白い敷布の中へでも入る。今も獣のように泥でよごれた足の裏のままずかずか縁側に上った。

「お茶もっといで」

お茶が来た。

「お茶菓子もっといで」

幸雄は、

「石川、お菓子おあがりよ」

とすすめた。すすめながらも、幸雄は牡丹の花に見とれているのがありあり分った。実際少し遠のくと重々しく艶な淡紅の花の姿全体が、サクサクした黒土との配合、品よく張った葉の繁り工合とともに、却って近くで見るに増した趣がある。掌に、皮が干上って餡から饐た臭のする桜餅をとって貰いながら石川は、