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ろうごくのはんにち

牢獄の半日

葉山 嘉樹

「文芸戦線 第一巻五号」1924(大正13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,671 字 · 16 页

青空文庫

誰がどうしないでも、独りでにお前の頭には白髪が殖えて来るんだ。腰が曲って来るんだ。眼が霞み始めるんだ。皺だらけの、血にまみれた手で、そこでやかましく、泣き立てている赤ん坊の首筋を掴もうとしても、その手さえ動かなくなるんだ。お前が殺し切れなかった赤ん坊は、ますますお前の廻りで殖えて行くだろう。ますます騒がしく泣き立てるだろう。ハッハッハッハハ。

赤ん坊がまるっきり大きくならないとしても、お前は年をとるんだよ。ヘッヘッ。

お前は背中に止った虱が取りたいだろう。そいつを、赤ん坊を引き裂いたように、最後の思い出として捻りつぶしたいだろう。そいつもむつかしくなるんだ。悶え始めるだろう。

お前は、肥っていて、元気で、兇暴で、断乎として殺戮をほしいままにしていた時の快さを思い出すだろう。それに今はどうだ。

虱はおろかお前の大小便さえも自由にならないんだ。血を飲みすぎたんで中風になったんだ。お前が踏みつけてるものは、無数の赤ん坊の代りとお前自身の汚物だ。そこは無数の赤ん坊の放り込まれた、お前の今まで楽しんでいた墓場の、腐屍の臭よりも、もっと臭く、もっと湿っぽく、もっと陰気だろうよ。