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ぶつりがくのおうようについて
物理学の応用について
寺田 寅彦
「理学界 第十巻第九号」1913(大正2)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,232 字 · 7 页
以上は自分の狭い知識の範囲内で僅少な実例を挙げたに過ぎないが、要するにこれらの産業方面でも意外な物理学応用の区域がある事は疑いのない事である。
今一般に実際上の問題に物理学を応用しようとする時に、第一着手としてしなければならぬ事は問題自身の分析的研究である。実際上に起る問題をちょっと見ると簡単なようでも通常非常に複雑なものである。同時に範囲の判然せぬ問題が多い。例えば光線が海中に入り込む深さは幾何かという問題が起ったとする。この問題に答える前に先ず問題から研究して掛からねばならない。第一光線には色々種類がある。太陽の光線なればその成分もほぼ明らかであるが、人工の燈光なればその光の色や燭力の分布などを区別して考えなければならぬ。次には海水自身を区別してその塩分の多少、混濁物や浮遊生物の多少などによっての差を考えねばならない。また海面の静平であるか波立っているかによって如何なる相違があるかという事も考えねばなるまい。これだけの区別をしてもまだ問題は曖昧である。光線が海水中に進入して行く時にはその光力は光の色によってそれぞれ一定の規則によって吸収されだんだんに減じて行くが、どこまでという境界はないはずである。