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とくしゅぶらくのはんざい
特殊部落の犯罪
豊島 与志雄
「新小説」1922(大正11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,455 字 · 15 页
一
「久七、お前が好きな物持って来ただよ。」
晴々しい若い声と共に、表の戸ががらりと引開けられた。
とっつきの狭い土間、それから六畳ばかりの室、その室の片隅に、ぼろぼろの布団の上へ、更に二枚の蓆をかけて寝ていたのを、むっくり上半身だけ起してみると、引開けられた四角な明るみから、つるが飛び込んで来た。眼をぱちくりやってると、鼻先へ徳利をつき突けられた。
「何だかあててみろう。」
揺る度びにどぶりどぶりと重い液体の音がして、ぷーんといい香がつっ走った。
「やあ……そうけええ。へへへ。」
笑いくずれた口をそのままに、涎が垂れるほどあんぐり打開いて、震える片手を差出した。
「いけねえよ。燗をしてくれるから待っといで。冷てえのは毒だってよ。」
と云ったがつるは、何の気もなく徳利を敷居際に置いて、土間にぴょんと飛び下りると、向う向きになって竈に火を燃し初めた。
「野田さんとけえ坊ちゃんの草履を持っていくと、久七はちっとも来ねえがどうしただと、旦那さんが聞いていさしたよ。煩って寝てるちゅうと、一人者で困るべえって、その酒をくれさっしただ。おらが時々行って世話あしてるちゅうと、えれえほめられた。