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とくしゅぶらくのはんざい

特殊部落の犯罪

豊島 与志雄

「新小説」1922(大正11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,455 字 · 15 页

青空文庫

「おつる坊、俺平吉より強えぞ。」

額に皺を寄せて差出してる首を、きょとんと一つ打振ってみせた。

つるは釘付にされたような足を一歩退る途端に、土間に転ってた椿の実を一つ踏えて、危く倒れそうになったのを、立ち直る拍子に思いついた。

「お前が強えたあ知ってるだが、頭が臭えから、これで洗ってみねえよ。」

先刻叩き割ってきた椿の実を、皮ごと土瓶に投り込んで、竈の上の自在鈎に掛け、上から水をじゃあと注ぎ込んだ。溢れた水が竈の焚き残しへ落ちて、ぱっと灰神楽が立った。

「煮立った後の湯で洗うだよ。」

気勢を挫かれてぼんやりつっ立ってる久七へ、彼女は尋ねかけた。

「お前ほんとに癒ったのかあ。」

「うむ。」と彼は首肯いた。

「じゃあおらもう来ねえよ、一人でやるがええ。」

口早に云い捨てながら、彼女は表へ駆け出してしまった。

久七は口と眼とをあっと開いて、その後姿を見送った。が暫くすると、にたにた笑いだしながら、竈に掛っている土瓶の方へ近寄っていった。

三

つるは二三日姿を見せなかった。

久七はぼんやり家に閉じ籠っていたが、或る晩飯を済ましてからランプの火影に坐ってると、表から聞き馴れた声が響いた。