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カラスキーしのゆうじょう
犂氏の友情
久生 十蘭
「オール讀物」1939(昭和14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页
とても恍けているわけにゆかなくなり、われながら、少しばかりムキになって、
「すると、あなたは、つまり、石亭先生を……」
と、心からなる感謝の意を述べようとすると、カラスキーは手を挙げて、
「その後はおっしゃってくださらなくてもけっこうです。格別、何をしたというわけでもないんだから。……先生に対するわたしのひそかな尊敬と友情が、陰ながら、いくぶんでも、先生のお役に立ったとしたら、それに越した喜びはありません」
そう言って、ゆっくりと両足を踏み伸して、背凭のとれかかった古い籐椅子の中に沈み込むようにしながら、
「……わたくしもね……私もむかし、モスクヴァで、ベイエの道徳社会学を勉強していたことがあります。結局、ものにならなかったことは、この風体をごらんになればおわかりになるでしょうが。……ああ、しかし、あの頃の生活は私の生涯にとって、いちばん楽しい時代でした。……辛い勉強の間にも、私はいつも希望と理想に守護されておりましたし、また田舎には、年とった母がまだ生きていた。大試験が済んで田舎へ休暇に帰って行く、その楽しさといったらありませんでした。長い野道の向うに、私の家が見えかかってくると、私は、嗚咽を止める力さえなかったほどでした」