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いぬがなくとガラスがこわれるか
犬がなくとガラスがこわれるか
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖 昭和36年第3号」暮しの手帖社、1961(昭和36)年7月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,337 字 · 41 页
そして弱体の面が見逃されるので、科学が万能のように、おもわれがちなのである。
この点については、きっと異論が出ることであろう。恋人の心をとらえるというような、人間の精神作用についてはそうかもしれない。しかし自然現象に対しては、科学は非常に強力なもので、どんな問題でも、科学の力によって解決されるはずだという考え方である。
この問題は、「はずだ」という言葉の意味のとり方で、どうにでもなるが、じっさいには、解けない、あるいは解決の非常に困難な問題が、自然現象の中にもいくらもある。そのよい例が、第一回目のアメリカの人間ロケットである。人間を大気圏外の空間にまで打ちあげ、それを無事に回収したのであるから、これは科学の強力さを、いかんなく示した大実験であった。しかしこの実験で、注目すべき点が一つあった。それは天候不良のために、第一回の発射が、途中で中止されたことである。
発射の準備が全部完了して、いよいよ最後の秒読みにとりかかった。カプセルの中にはいっていたシェパード中佐は覚悟のほぞをきめて、一秒一秒を、じっと待っていたにちがいない。ところが発射直前になって、天候悪化の気配があったので、発射は急に取りやめになった。