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いぬがなくとガラスがこわれるか
犬がなくとガラスがこわれるか
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖 昭和36年第3号」暮しの手帖社、1961(昭和36)年7月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,337 字 · 41 页
味の素の発見は、料理に一紀元を画したものではあるが、これでうまいという味の問題が片づいたわけではない。味の素は、グルタミン酸ソーダであって、昆布のうまみの主成分である。その外にも、天然には、鰹節だの、椎茸だの、いろいろちがったうまみがある。それで、鰹節の味の主成分イノシン酸ソーダや、椎茸の味のグアニル酸ソーダなどを加えた調味料も売り出されてきた。
このほうが、もちろん味は複雑になり、一進歩にはちがいないが、それでも、うまさの問題が、これで全部解決されたわけではない。第一に、これらの化学製品は、ある食品のうまみの主成分であって、そのうまみのすべてではない。複合調味料についても、同じことがいえる。
それよりも大切なことは、こういう調味料と食慾との関係である。味の素の料理をうまいという人もあるし、しつこいといっていやがる病人もある。いやがるほうが、病理的の現象か、うまいとおもうほうが、人工調味料にならされて、舌が味盲になっているのか、簡単には断定できないであろう。もちろん使い方にも、問題がある。
食慾の問題は、栄養学のなかでも重要な部面とおもわれるが、あるえらい医学者の話では、この方面は、現代の医学ではほとんど未開拓の分野であるということである。