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いぬがなくとガラスがこわれるか
犬がなくとガラスがこわれるか
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖 昭和36年第3号」暮しの手帖社、1961(昭和36)年7月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,337 字 · 41 页
天然の川は、はじめから少しはうねうねしている。絶対にまっすぐな形の川ができるような地形はない。ところが、いま述べたような理由で、そのうねうねは、しだいに自分で発達する。それで、現在われわれが見る川は、みな蛇行をしている。これは、流速と浸蝕という二つの現象のあいだの規則性によって起こるのである。こういうふうに、いろいろの現象のあいだには規則性が存在するが、それがすなわち科学の法則である。
川にはこういう性質があるから、皆さんが、もし川沿いの土地を買われる場合は、なるべくカーヴの内側すなわち川に向ってつき出た側の土地を買われるほうがよい。何年かするうちに、だんだん土地がふえてゆく。もし反対に、カーヴの外側の土地を買ったら、孫の代くらいには、大分せまくなるので、損をする。
いま誰かが、川岸に立って川の姿を見ているとする。そして、この蛇行の原理におもいあたって、なるほどそうかと、一人で合点したとすると、その人は、科学者である。ところでその人が、それでは内側の土地を買ったほうがよいと考えたら、とたんに実業家にかわるわけである。
そのほかにも、川の流れのことをしらべているうちに、ちょっと周囲をながめて、ああ美しい景色だなとおもったら、科学と芸術とが共存していることになる。