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いぬさんたい

犬三態

宮本 百合子

「都新聞」1939(昭和14)年10月30、31日、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,236 字 · 9 页

青空文庫

景清

この夏、弟の家へ遊びに行って、甃のようになっているところの籐椅子で涼もうとしていたら、細竹が繁り放題な庭の隅から、大きな茶色の犬が一匹首から荒繩の切れっぱしをたらしてそれを地べたへ引ずりながら、のそり、のそりと出て来た。ひどく人間を警戒していて、眼と体のあらゆる感覚を集めてあたりの空気に触れてみてから、脚をのそり、のそり運ばせて来る、そんな工合でだんだん此方へ近づいて来た。甃のところまで来ると、人間が用心して物を見る時のとおり眉根の辺を動かす表情で此方を見て、害心のないのを感じたらしくそこへ坐った。それでもまだ視線は人間から決して離そうとしない。

この犬、どっかから逃げて来たんだって。小さい男の子が、そんなことを云いながら、せんべを犬の方へ投げてやった。歯音をカリカリ立ててすぐ喰べた。ひどくおなかすかしているの。というのは本当らしい。

人間が椅子の上でちょいと体を動かしても、三四間先の地べたにいるその犬はすぐ反応して神経を亢て、緊張した。犬はやがてその辺を、さっきあっちから出て来たとおりの人間を意識した態度で少時歩いたが、元のところへ戻って来て再び腰をおろした。