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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

平和なところなんて、もう、日本のどこにもありませんよ」

と花井が云った。この会話の起りは、そのころ県の新聞を賑わしていた県都に起った情痴殺人事件からであるから、以下の会話は不自然な推移ではなかった。

人見「そんな妖気がこの村に現れていますかな」

花井「いますとも。日蓮行者のサヨなぞは殺されないのがフシギですよ」

サヨは村ではただサヨで通るほど有名であった。東京で女中奉公していたが、終戦後帰郷して結婚。二年前に良人が死んだ。それ以来とかくの噂が絶え間がない。しかし彼女が淫乱なのは、日蓮行者になったのと同じように、生活のためでもあるらしい。独身の無学な女が畑も持たずに山中の村では暮しの立てようがないかも知れないからである。殺されたとき、まだ二十七だった。云われてみれば、人見にも思い当ることはあった。

人見「なるほど。あの女がもとで殺人騒ぎが起ってもフシギはないかも知れませんな」

花井「それ、ごらんなさい。あなたもそう思うでしょう。サヨは必ず殺されますよ。近いうちに、殺されます」

人見「必ず、というのは、どうですか。ともかく、何かあってもフシギはありませんな」