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きょうげんのかみ
狂言の神
「東陽」1936(昭和11)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页
を悲惨の境遇に蹴落すのだということに思いいたり、私は鎌倉駅まえの花やかな街道の入口まで来て、くるりと廻れ右して、たったいま、とおって来たばかりの小暗き路をのそのそ歩いた。駅の附近のバアのラジオは私を追いかけるようにして、いまは八時に五分まえである、台湾はいま夕立ち、日本ヨイトコの実況放送はこれでお仕舞いである、と教えた。おそくまでまごついて居れば、すぐにも不審を起されるくらいに、人どおりの無い路であった。善は急げ、というユウモラスな言葉が胸に浮んで、それから、だしぬけに二、三の肉親の身の上が思い出され、私は道のつづきのように路傍の雑木林へはいっていった。ゆるい勾配の、小高い岡になっていて、風は、いまだにおさまらず、さっさつと雑木の枝を鳴らして、少なからず寒く思った。夜の更けるとともに、私の怪しまれる可能性もいよいよ多くなって来たわけである。人がこわくてこわくて、私は林のさらに奥深くへすすんでいった。いってもいっても、からだがきまらず、そのうちに、私のすぐ鼻のさき、一丈ほどの赤土の崖がのっそり立った。見あげると、その崖のうえには、やしろでもあるのか、私の背丈くらいの小さい鳥居が立っていて、常磐木が、こんもりと繁り、その奥ゆかしさが私をまねいて、私は、すすきや野いばらを掻きわけ、崖のうえにゆける路を捜したけれども