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きつね
狐
岡本 かの子
「文学界」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页
――これが評判のさつま芋というものか。町方では毒になるといったり、薬になるといったり、諸説まちまちだ。河豚は食いたし、命は惜しだな。
――貴公までそんなことをいう。やがて三つ児まで、駄菓子のように食い出すよ。
――こりゃあやしいまで甘い。だが怖い気もする。
――怖い気がするからあやしいまでうまいのだ。
――はあ、そうかも知れん。おっと忘れていた。貴公に土産を持って来た。上酒だぞ。
――ほほう、そりゃ忝けない。しばらく酒も飲まんな。折角の酒を何も肴がのうては。
――(空の具合を見廻して)どうだ、この黄昏の冬木立を賞美しながら、雑司ヶ谷あたりまで行かんか。あすこなら、芋田楽なり雀焼なり、何ぞ肴が見付かろう。
――そういう風流気はないが、貴公行きたければ同伴しよう。
――戸締りはせんのか。
――盗人が入っても盗らるるものは只今剥き捨てた甘藷の皮ばかりだ。
――は、は、は、は、は。
――は、は、は、は、は。
二
欅の並木の間に葭簾で囲った茶店一軒。
遠見に鬼子母神の社殿見ゆ。
――冬の月、骨身に沁みて美しいが、生憎と茶屋は締ってしまった。
――こんな時刻に来るものはあるまい。