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せまいいちそくめん
狭い一側面
宮本 百合子
「中央公論」1925(大正14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,348 字 · 5 页
私が、初めて瀧田哲太郎氏に会ったのは、西片町に在った元の中央公論社でであった。大正五年の五月下旬であったろうか、私は坪内先生からの紹介で二百枚ばかりの小説を持ち、瀧田氏に面会を求めて行ったのです。
留守かと思ったら、幸い社におられた。小さい木造洋館の石段から入った直ぐのところに在る応接室で待っていると、程なく二階から狭い階子を降りて一人の男の人が出て来た。体じゅうの線が丸く、頬っぺたがまるで赧い。着流しであった。紺足袋に草履ばきで近づき、少し改った表情で挨拶された。
「私が瀧田です」
言葉の響の中に、つよい北方の訛があった。その訛が、顔や体に現れる微細な動き、調子とひどく調和してい、一種性格的なものを感じさせる。――私は、この特徴に富んだ人をどう理解してよいのか分らなかった。赧い赧い頬、それと極めて鮮やかな対照をなしつつぽやぽやっと情熱的にほやついている漆黒な髪、特色ある早口、時々私を視る眼光の鋭さ。生活力の横溢が到るところに感じられた。同時に、単純でない何ものか――謂わば狷介というようなものをも一面感じられる。――
私は、自分からは、どう出てよいか分らず、瀧田氏から訊かれることだけを答えた。