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たぬきいし

狸石

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1952(昭和27)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,468 字 · 7 页

青空文庫

男――覚えてるよ。事情が打開されるまで待とうと言った。

女――そしてひどく怒って、殴りつけなすったわね。だからあたしも、かーっとなって、あなたのところを飛び出したけれど、それでも待ちました。

男――いや、お前は待たなかった。

女――いいえ、待ちました。この狸石に聞いてごらんなさい。あなたがこの石をほんとに好きだってこと、どうかするとあたしよりも好きだってこと、よく分っていました。だから、この石のところまで逃げて来て、あなたが追っかけていらっしゃるのを待ちました。けれど、いくら待っても、あなたは後を追っていらっしゃいませんでした。最後にあたしは、一つ二つと……十の数を数えました。一回数えてもだめ、三回に延して数えてもだめ。五回まで数えました。それでもだめだったから、泣きながら立ち去りました。

男――いや、僕は追っかけて来たんだ。十を五回数えたんなら、なぜ、七回数えなかったんだ。なぜ、十回数えなかったんだ。そうしたら間に合っていた。

女――そんなら、なぜあたしは五回まで延したんでしょう。三回でうち切ってもよかった筈です。

男――十回まで延せばよかったんだ。