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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

それに胃の腑がふくらんでいるので、尚更大儀なのでもあろう。この動物の無精な性質を呑み込んでいる庄造は、こう云うそっけない態度には馴れているので、格別訝しみはしなかったが、でも気のせいか、その夥しく眼やにの溜った眼のふちだの、妙にしょんぼりとうずくまっている姿勢だのを見ると、僅かばかり会わなかった間に、又いちじるしく老いぼれて、影が薄くなったように思えた。分けても彼の心を打ったのは、今の瞳の表情であった。在来とてもこんな場合に睡そうな眼をしたとは云え、今日のはまるで行路病者のそれのような、精も根も涸れ果てた、疲労しきった色を浮かべているではないか。

「もう覚えてエしまへんで。―――畜生だんなあ。」

「阿呆らしい、人が見てたらあないに空惚けまんねんが。」

「そうだっしゃろか。………」

「そうだんが。………そやさかいに、………済んまへんけど、ほんちょっとの間、初ちゃん此処に待っててくれて、この襖締めさしとくなはれしまへんか。………」

「そないして、何しやはりまんね。」

「何もせえしまへん。………ただ、あの、ちょっと、………膝の上に抱いてやりまんねん。………」

「そうかて、姉さん帰って来まっせ。