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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
だから庄造は、その母親までが突然福子の味方をし出した様子を見ては、心外でたまらないのであった。
「けど、リリーやったら遣ったかて又戻って来まっせ。なんせ尼ヶ崎からでも戻って来る猫やさかいにな。」
「ほんになあ、今度はまるきり知らん人やあれへんよって、そこは何とも分らんけど、戻って来たら又置いてやったらええがな。ま、兎も角も遣ってみてみいな。―――」
「ああ、どうしよう、困ったなあ。」
庄造は頻りに溜息をついて、まだ何かしら粘ってみようとしていたが、その時おもてに足音がして、福子が風呂から帰って来た。
「塚本君、分ってまんなあ? これ、なるべくそっと持って行かんと、乱暴に振ったらあきまへんで。猫かて乗物に酔うさかいになあ。」
「そない何遍も云わんかて、分ってまんが。」
「それから、これや、」
と、新聞紙にくるんだ、小さな平べったい包みを出して、
「実はなあ、いよいよこれがお別れやさかいに、出がけに何ぞおいしいもん食べさしてやりたい思いまんねんけど、乗物に乗る前に物食べさしたら、えらい苦しみまんねん。それでなあ、この猫鶏の肉が好きやよってに、僕、自分でこれ買うて来て、水煮きにしときましたさかい、彼方へ着いたら直き食べさしてやるように云うとくなはれしまへんか。