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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

彼女はよく、額を庄造の顔にあてて、頭ぐるみぐいぐいと押して来た。そうしながら、あのザラザラした舌の先で、頬だの、頤だの、鼻の頭だの、口の周りだのを、所嫌わず舐め廻した。夜は必ず庄造の傍に寝て、朝になると起してくれたが、それも顔じゅうを舐めて起すのであった。寒い時分には、掛け布団の襟をくぐって、枕の方からもぐり込んで来るのであったが、寝勝手のよい隙間を見付け出す迄は、懐の中へ這入ってみたり、股ぐらの方へ行ってみたり、背中の方へ廻ってみたりして、ようよう或る場所に落ち着いても、工合が悪いと又直ぐ姿勢や位置を変えた。結局彼女は、庄造の腕へ頭を乗せ、胸のあたりへ顔を着けて、向い合って寝るのが一番都合がよいらしかったが、もし庄造が少しでも身動きをすると、勝手が違って来ると見えて、そのつど体をもぐもぐさせたり、又別の隙間を捜したりした。だから庄造は、彼女に這入って来られると、一方の腕を枕に貸してやったまま、なるべく体を動かさないように行儀よく寝ていなければならなかった。そんな場合に、彼はもう一方の手で、猫の一番喜ぶ場所、あの頸の部分を撫でてやると、直ぐにリリーはゴロゴロ云い出した。