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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

夜は夫の寝床を敷いて、帰るかどうか分らない人を待ち侘びていると、その寝床の上へ遠慮会釈もなく乗って来て、のうのうと脚を伸ばす憎らしさに、寝かけたところを叩き起して追い立ててやる。そんな工合に、随分この猫には当り散らしたものだけれども、再びこうして一緒に暮すようになったのは、やっぱり因縁と云うのであろう。品子は自分が蘆屋の家を追い出されて来て、始めてこの二階に落ち着いた時にも、あの北側の窓から山の方を眺めながら、夫恋いしさの思いに駈られたことがあるので、今のリリーがああして外を見ている心持もぼんやり分るような気がして、ふと眼頭が熱くなって来るのであった。

「リリーや、さ、此方へ来て、これ食べなさい。―――」

やがて彼女は、押入の襖を開けて、かねて用意をしておいたものを取り出しながら云うのであった。彼女は昨日塚本の端書を受け取ったので、いよいよ此処へ連れて来られる珍客を待するために、今朝はいつもより早起きをして、牧場から牛乳を買って来るやら、皿やお椀を揃えておくやら、―――この珍客にはフンシが必要だと気が付いて、昨夜慌てて炮烙を買いに行ったのはいいが、砂がないのには困ってしまって、五六丁先の普請場から、コンクリートに使う砂を闇にまぎれて盗んで来るやらして、そんなものまで押入の中にこっそり忍ばせて置いたのである。