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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

彼女はいっそ、自分がいない方がいいのかも知れない、暫くひとりにしておいたら、その間に食べるものは食べ、垂れるものは垂れるかも知れないと、そうも期待していたのであったが、勿論そんな形跡もない。彼女は「チョッ」と舌打ちをして、今も部屋のまん中に空しく置かれてある御馳走のお皿と、砂が少しも濡れていない綺麗なフンシとを恨めしそうに睨みながら、針箱の傍にすわる。かと思うと、ああ、そうだった、あんまり長く縛っておいては可哀そうだと、又立ち上って、解きに行って、ついでに撫でてみたり、抱いてみたり、駄目と知りながらも食べものをすすめてみたり、フンシの位置を換えてみたり、それを幾度か繰り返すうちに日が暮れて来て、夕方の六時頃になると、階下から初子が晩の御飯を知らせるので、又紐を持って立ち上る。そんな風にして、その日は一日猫のことにかまけて、請け合った仕事も出来ないままに秋の夜長が更けてしまった。

十一時が鳴ると、品子は部屋を片づけてから、もう一度リリーを縛って、座布団を二枚も敷いた上へ臥かして、御飯と便器とを身近な所へ並べてやった。それから自分の寝床を伸べ、あかりを消して眠りに就いたが、せめて朝になるまでには、牛乳でも鶏でも何でもいいから、孰れか一つぐらい食べていてくれないだろうか、明日の朝眼を開いた時あのお皿が空になって