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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

いてくれたら、そうしてフンシが濡れていてくれたら、どんなに嬉しいであろうなどと思うと、眼が冴えて来て寝られないままに、リリーの寝息が聞えるか知らんと闇の中で耳を澄ますと、しーんと水を打ったようで、微かな音もしていない。あまり静か過ぎるのが気になって、枕から首を擡げると、窓の方は薄ぼんやりと明るいけれども、リリーがいる筈の隅ッこの方は生憎真っ暗で何も見えない。ふと思いついて、頭の上を手さぐりして、天井から斜ッかいに引っ張られている紐を掴んで、手繰り寄せると、大丈夫手答えがある。でも念のために電燈を付けて見ると、成る程いることはいるけれども、あの、拗ねたようにちぢこまって、円くなっている姿勢が、昼間と少しも変っていないし、食べ物もフンシもそっくりそのまま並んでいるので、又がっかりして明りを消す。そのうちに漸くとろとろとしかけて、暫くしてから眼を覚ますと、もういつの間にか夜が明けていて、見ればフンシの砂の上に大きな塊が落してあり、牛乳のお皿と御飯のお皿がすっかり平げられているので、しめたと思うとそれが夢だったりするのである。

だが、一匹の猫を手なずけるのは、こんなに骨の折れることなのだろうか。