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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

」

と、ジャブジャブ云う音がふいと止まって、

「何やて?」

と、母親のしっかりした声が障子越しに聞えた。

「僕、ちょっと其処まで行って来るよってに―――」

「何処へ?」

「つい其処や。」

「何しに?」

「そないに執拗う聞かんかて―――」

そう云って、一瞬間むっとした顔つきで、鼻の孔をふくらましたが、直ぐ又思い返したらしく、あの持ち前の甘えるような口調になって、

「あのなあ、ちょっと三十分ほど、球撞きに行かしてくれへんか。」

「そうかてお前、球は撞かんちゅう約束したのんやないか。」

「一遍だけ行かしてエな。何せもう半月も撞いてエへんよってに。頼みまっさ、ほんまに。」

「ええか、悪いか、わてには分らん。福子のいる時に、答えて行っとくなはれ。」

「何でエな。」

その妙に力張ったような声を聞くと、裏口の方で盥の上につくばっている母親にも、忰が怒った時にするだだッ児じみた表情が、はっきり想像出来るのであった。

「何で一々、女房に答えんなりまへんねん。ええも悪いも福子に聞いてみなんだら、お母さんには云われしまへんのんか。」

「そうやないけど、気をつけてて下さいて頼まれてるねんが。」

「そしたらお母さん、福子の廻し者だっかいな。